コラム

子が親を死亡させたら相続権はなくなる?

ある日、資産家Aさんが自宅で変死している状態で発見されました。

Aさんは独身で子どももいませんでしたが、母Bさんの知らない若い男性、Dさんと養子縁組していることが発覚しました。

警察の捜査により犯人が逮捕。なんと逮捕されたのは養子であるDさんでした。

しかし、逮捕された養子Dさんは拘置所で自殺してしまったのです。

Aさんは、父親であるCさんが亡くなったときに、約1億円の資産を相続していました。

そして、Aさんの死亡後に養子Dさんが相続しました。

養子Dさんには、離婚協議中の妻Eさんがいますが、その方以外に相続人となる人はいません。

このように、養子が養親を死に至らしめた場合、その相続権はどうなるのでしょうか。

相続権を失う相続欠格

日本の相続制度では、亡くなった方に対して良からぬことした者は相続人の権利を失うという法律があります。

民法

第891条 次に掲げる者は、相続人となることができない。

1.故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者

2.被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。

3.詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者

4.詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者

5.相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者

この条文から判断すると、養子Dさんの行為は相続欠格になりそうですが・・・

判決前に死亡した場合の取り扱い

ポイントとなるのは、容疑者である養子Dさんが「刑事裁判を受ける前に亡くなってしまった」ということです。

民法第891条1項をよく見ると、被相続人を殺害しただけではなく、刑事裁判で有罪判決を受け、刑に処せられる」ことが必要とされているのです。

養子Dさんは、取り調べの段階で自殺しているため刑事裁判になっていません。

したがって、有罪判決も受けていなければ、刑も受けていないのです。

つまり、養子Dさんは相続欠格者とはなりません。

ということは、養子DさんはAさんを殺害したかもしれないのに相続人になれるということになります。

養子Dさんは、妻Eさんと離婚協議中です。しかし、離婚協議中であっても離婚していなければ相続する権利はあります。

したがって、養子Dさんの「Aさんの財産を相続する権利」を、養子Dさんの相続人となる妻Eさんが、さらに相続することとなります。

結論としては、「養子Dさんは養親である資産家Aさんを殺害していたとしても、有罪判決を受けて刑に処せられる前に自殺してしまったので相続資格を失いません。資産家Aさんの1億円は養子Dさんに相続され、離婚協議中の妻Eさんが相続する」ことになります。

相続放棄をすると誰が相続するのか

妻Eさんは離婚協議中だったということもあり、遺産なんて受け取りたくないと思うかもしれません。そうなると相続放棄の手続きを取ることでしょう。

Dさんには、相続人となる方が妻Eさんしかいないため、相続放棄をすることで相続人が1人もいないような状況になります。そのような場合、相続財産は最終的に国のものになります。

養子縁組が無効になると

では、養子Dさんと養親Aさんの養子縁組が、Dさんの偽造であった場合はどうなるのでしょうか。

実は養子縁組が無効となると、初めから相続人ではなかったことになります。

母BさんがAさんの財産を取り戻そうとすれば、養子縁組が無効であることを主張すれば、財産を取り戻すことができるかもしれません。